地方銀行の現場をDX化するための処方箋

2024年12月06日

地域金融機関は、デジタル化、ペーパーレス化の名のもとに、今まであった書類を電子化する流れにあります。従来の紙でしていた業務が電子化されているだけで、稟議決済であったり、企画の決済が電子決済化されただけなのです。書類が電子化されたことで、業務の時間的な効率化と紙を使わないことによる経費の削減が行われているだけに過ぎません。銀行の行っているDXは、銀行内部の書類のデジタル化を行っているだけで、お客様に対するサービス価値提供上では、DXは行われていないのが現実です。

DXの本質はユーザー価値の提供

IT専門の調査会社であるIDC Japan株式会社は、DXの定義を「市場や顧客の変化に対応しつつ、組織の変革に取組みながら適切なプラットフォームを活用して、ユーザーの価値を提供し市場の優位性を確立すること」としています。ユーザー価値を提供し、市場の優位性を確立すること、このフレーズが非常に重要なのだと思います。ユーザーのために組織を変化させていくことが必要なのです。

地域金融機関にとってユーザーとは誰なのでしょうか。ユーザーは地域のお客様と、将来にわたって存続してもらわなければいけない地域と、地域を構成する人たちです。この地域のユーザーに対して、価値を効果的に提供する仕組みが構築できていないことに問題があると思います。

なぜ価値を提供できる仕組みが構築できないのでしょうか。それは銀行の組織構造が縦割りで、現在の複雑な社会変化に対応できない構造になっているからだと思います。地域金融機関が行う業務改革は、金融事業から派生した課題解決型のソリューション提案と、銀行の内部の情報を使った新たなデータ活用ビジネスに留まっているのです。

はっきりいって日本のどこの金融機関も同じようなことをしています。ソリューション型のコンサルタント業務のビジネスは、専門のコンサルタントやIT事業者がおり、将来的に地域金融機関は今のコンサルティング業務だけで収益を上げていけるのでしょうか。主要な銀行がコンサルティング業務をしているから、私達もチャレンジしてみようというようなことでは、ビジネスモデルとして上手くいくのでしょうか。

地域金融機関は、自社の強みを再度きちんと明確にして、その強みを新しい枠組みの中で組み替えていく必要性があると思います。そして地域のユーザーであるお客様にとって、本当の価値提供を実現するためには、どのようにすればよいのかを真剣に考える必要があると思います。

銀行の組織構造は縦割りで、経営陣、企画部署が考えた企画を、現場である支店やコンサルティング部署の担当者に遂行させる営業スタイルなのです。既に決められている商品を、現場組織全体でお客様に対して営業を行うのです。この決められた商品は融資、運用性商品、M&A、コンサルタント等だけで、本当にお客様が求めているユーザー価値を実現できるのでしょうか。

複雑化した社会のニーズに対して、地域金融機関の組織は硬直的であり、地域経済が衰退する中で対応していくには、柔軟性を欠く組織体系になっていると思います。

では地域のお客様のユーザー価値に向けた本当の地域金融機関のDXとはどのようなものでしょうか。それはお客様の事業価値を上げるために、地域金融機関が持っている強みや経営資源を効率よく使い、新しい付加価値をお客様と一緒に創造していくということだと思います。

何かをしたから手数料がもらえるみたいなゼロサムゲームではなくて、お客様と一緒に新しい企画を考えて、新しい付加価値を創造して、その創造された付加価値の利益から、銀行に一部分だけを継続的に還元してもらえるような仕組みを作れば良いと思います。この新たな付加価値創造を企画し、お客様と一緒に遂行していくプロジェクトを多く立ち上げるのです。そして地域の中で付加価値を生むプロジェクトの数をどんどん増やしていくのです。

地域金融機関の組織構造の問題

地域金融機関の組織構造の形態は、ピラミッド型のたこつぼ型の組織で、本部から支店の中まで縦割りの構造です。ピラミッド型の縦割組織は単一的な仕事をするのには向いていると思います。上席が指示したことに対しては、社員は忠実に業務をこなします。いわれたことについては必死になって働くのですが、指示されないことについては、関わりや関心を持とうとしません。拡張性が非常に低い組織形態なのです。 

ピラミッド型のたこつぼ型の組織では、お客様の困り事に対して広くサポートができる仕組にならないのです。トップダウンで上席が決めたことを従順にこなすだけであれば、ピラミッド型組織でも充分です。

このような組織は、社員数×労働時間で稼げていた時代の名残りがまだ続いていると思います。一つの支店で支店の人数に合わせてノルマがかされて、それぞれの社員が自分の時間を使って収益を上げていくビジネスモデルです。仕事の質としては拡張性の低い業務の仕方なのです。工員が工業製品を製造するのと同じように、労働時間に応じて成果物を求める旧態依然とした組織形態です。

現在は情報化社会が進んで複雑な事象が現場で多くあり、知識労働者が知恵を使って工夫しながら課題を解決しなければならない現場になっているのです。なのに地域金融機関は人材が働いた時間に対してお金をもらう拡張性のない仕事の仕方になり下がっているのです。だから入社しても若い人たちは仕事の仕方に嫌気がさして転職もするし、新しく銀行に入ってくる人も少なくなっているのだと思います。

地域金融機関の強みを活かす

地域金融機関の中には、まだまだ優秀な人材が数多くいます。この優秀な人材が、たこつぼ型の縦型組織で閉じ込められて、有効に活用されていないのです。優秀な地域金融機関の人材を自由に動かして、新たな付加価値創造活動に従事してもらうのです。