キーエンスの無形資産経営を地方銀行の経営に活かす

2025年04月08日

キーエンスの強みは無形資産と現場の人材

キーエンスは日本を代表するファクトリーオートメーション用の、センサ・画像処理機のメーカーですが、自社では製造工場を持たないファブレス企業です。ファブレス企業なので工場等の大きな固定資産がなく、自社に持っているのは、財務諸表の簿価にのらない人材とノウハウ等の無形資産が企業の強みになります。固定資産を多く持たないので自己資本比率は約95%もあります。

自社は企画と設計に専念して、お客様に対して新たな付加価値創造を行う製造ラインやノウハウの提供を行います。お客様は提供してもらったサービスや製造ラインから新たな付加価値がうまれ、その付加価値を源泉としてキーエンスに収益が入ってくる仕組みが作られているのだと思います。

キーエンスはお客様の課題を直接聞ける仕組みを作っている

また、キーエンスは代理店や販社を通さず、専門知識を持ったキーエンスの営業担当者が生産現場に足を運び、課題やお悩みを直接聞き、隠れたニーズを見つけ、お客様の課題に合わせた最適なソリューションを提案しています。さらにお客様からの生の声を商品開発にフィードバックし、商品の改良や新商品開発に活かしています。この代理店を介さない直販システムが、お客様との信頼関係を築き、ユーザーに寄り添った商品開発を実現できることが最大の特徴となっています。

地方銀行もお金という無形資産を扱っている

地方銀行である銀行は、お金を取り扱っています。銀行のお金は融資や預金という形で、お客様に提供されています。お金自体は形のあるものではありません。銀行は従来、融資の対象として機械や土地、建物、在庫資金等と形があるものに融資をするのが当たり前でした。しかし現在はGAFAに代表されるように、ソフトやシステム、ブランド等の無形資産が経済の多くを占める社会になっています。

日本の企業(地方銀行)は無形資産に対する関心が薄い

企業に占められる無形資産の割合(2020年時点)は日本では32%、米国は90%。欧州は75%、韓国57%、中国44%と日本の企業はかなり低くなっています。しかし日本も人口減少問題の影響があり今後経済を発展させていくためには、現場の生産性改善や自社商品のブランド力アップによる収益力強化を図る必要があります。

地方銀行の経営を旧態依然とした、物(有形資産)に対する資金提供を中心にするビジネスから、自らが人材とノウハウを提供、企画する会社にならないと、現状を打破することは難しいのではないかと考えています。

日本経済はスタグフレーションになる危機

現在はインフレに伴う日銀の政策金利のアップにより地方銀行の業績改善が見込まれていますが、大幅な金利上昇は期待できないのではないでしょうか。仮にインフレが急速に進んで政策金利を大幅に引き上げなければいけない状況になれば、地域の中小企業の生産性向上を上回る金利上昇となり、スタグフレーション(景気低迷下での物価上昇)が起こり、日本経済は停滞して地域金融機関の業績も低迷するのではないでしょうか。

そしてまさに今、トランプ関税の影響により世界全体に不透明感が広がり始めました。覇権国家の台頭による戦争のリスクも高まっています。このような先行きが分からない状態のなかで、日本全体の経済や地域経済をより強くしておかないと、世界の潮流の中に日本と日本の地域も巻き込まれて日本全体が不幸になるのではと心配になってきます。このような不安材料が多くでてきている状況で大幅な金利のアップを図ることはリスクがあるのです。

キーエンスは現場の人材と無形資産を上手く組合せている

キーエンスは抱えている人材に対して、無形資産であるノウハウ、特許、提案力(企画力)により、お客様の現場での付加価値創造を伴ったコンサルティングサービスを実現し、高い収益力を誇っているのだと思います。

お客様の課題に対して改善できる様々なノウハウや特許、ビジネスモデル等の無形資産を社内に蓄積して管理する仕組みがあるのだと思います。これを現場の営業マンを通じてお客様から情報を収集して、スムーズに課題解決のソリューションを提供できる仕組みと、本部のバックアップ機能が有機的にシステム化されているのだと思います。

地方銀行の業務は生産性が低い

地方銀行の中には人材はいます。しかし現状ではその人材が、生産性の高い仕事から低い仕事まで、1人の行員が様々な業務をこなしていて生産性の高い仕事に集中できていないのです。

従来の仕事の仕方を、お客様の付加価値向上に資する仕事に集中できる業務に変えていけば、いくらでも収益は上げていけるのではないかと思います。

地方銀行の無形資産はお客様の商材(コンテンツ)と地域ネットワーク

地方銀行は地域の中で様々な特徴を持ったお客様の商材(コンテンツ)があり、現場の行員を通じて、そのコンテンツに常にアクセスできる良いポジションにいます。従来の融資や預金を中心にしたビジネスモデルに加えて、新しく無形資産から収益を上げるビジネスモデルを加えるという発想を持つだけでも、5年後10年後の地方銀行の経営と、地域の経済状況も変わってくる可能性があると思います。