地方銀行の経営に松下幸之助の考え方を活かす『他人(ひと)のものは自分のもの、自分のものは他人(ひと)のもの』
松下電器産業(現Panasonic)の創業者、松下幸之助の伝記書籍「成功の法則」(著者:江口克彦)の中に、現代社会にも通じる良い考え方があるので紹介します。
他人(ひと)のものは自分のもの、自分のものは他人(ひと)のもの
【松下幸之助と江口氏の会話】
「このあたりはわしの土地やこれから行く料理屋さんもわしのもんや」
昼の食事をするために車で出かけたときのことであった。松下のそばで仕事をするようになって、2、3年の頃である。6月であったが街中から郊外へ出ると緑の木々がとりわけ美しい。京都の北西、嵯峨鳥居本にある平野屋は有名な鮎料理屋で、若い私にはなかなか行けないとろであった。
「なぁ君そう考えたら気が大きくならんか。心が大きくならんか。そういうふうに思った方が面白いやろ」
「もちろん、この辺の土地もこれから行く料理屋さんも、私のもんではない。けどな、そう考えたら愉快やで」
「この土地は自分のもんやけど、自分は電器屋を中心にして仕事をやっておるから、この辺の土地まで管理するような事はできない。そこで他人にお願いしてこの土地の面倒を見てもらっている」
「そう考えれば、きみ、こういうところを通っていても、きれいに使おう、静かに走ろう、他の車に迷惑をかけたりしないようにしようと思う。ましてやごみを捨てたり、枝や花を折ったりはできん」
「自分の庭やからね。自分のものを他の人がお世話してくれてるんだから、自然とそういう心持ちになるわけやな」
「これから出かける料理屋さんも、自分の料理屋さんやから、代金は払わんでもええわね。それではただで帰ってこれるかというとそうはいかんわなぁ」
「自分のお店をその人たちに頼んで日々一生懸命にやってもらっておるのやから、日ごろの努力、今日のもてなしを思えば、それなりのお礼を差し上げなければいかん。そう考えれば、お店の人に感謝の気持ちも湧いてくるし、思わず優しい一言も出てくる」
「どうや気分が大きくならんか、きみ」
たとえば電車だ。この鉄道会社は自分のもので、しかし、自分は別の仕事をしているから、他の人たちに経営をやってもらっているのだと考える。そう思えば、他の顧客は自分の会社の電車を利用してくださるお客様だ。
そうすると松下電器も松下の持っている資産も、実は私のもので、私は私の仕事があって、その経営も管理もできないから松下幸之助さんにやってもらっているんだ、と考えることも許されるわけかと思わず一人笑ったことがあった。
さらに発想を広げていくと、『他人(ひと)のものは自分のもの』という考え方に続いて、『自分のものは他人(ひと)のもの』という考え方も自然に導かれてくる。
松下の中で『会社は公(おおやけ)のもの』『企業は公器』であるという考え方は非常に大きな意味を持っていた。企業は天下の人、物、金を活用するのであるから、必然企業は天下のもの、公(おおやけ)のものと考えるべきだと松下は説明している。
松下幸之助の考え方に共感
私の自宅の近所に県が管理する、50000坪の大名庭園があります。3000円弱でいつでも入園できる年間パスポートを購入しており、運動や思索のために気の赴くままに散歩ができ重宝しております。当然自分の庭ではないのですが、自分の庭のように散策できます。自分の自宅のことを勝手に「50000坪の庭付き住宅や」といって、家族にひんしゅくをかっています。
しかしこれも松下幸之助の『他人(ひと)のものは自分のもの、自分のものは他人(ひと)のもの』という考え方と一致する考え方だと思うのです。
シェアリングエコノミーのはしり
この松下幸之助と江口氏の会話の中から感じるのは、資本主義の原則である所有という概念を超えた、世の中のものは共有しているという考え方になると思うのです。今でいうシェアリングエコノミーに近い考え方をお持ちになっていたのではないかと思うのです。
地方銀行でも地域資源を共有する発想を持つ
これを地域の中で見たときには、自分たちが持っていない技術やものは、他の人たちから借りて作ってもらったり、世の中のためになるものを協力して作っていく、という発想になると思うのです。
地方の中にある自然資源や歴史物も、所有者は国であったり、お寺だったり、神社だったりするのですが、これを地域の共有財産だと思い使わせてもらうことで、新しいものが生み出せる可能性があると思うのです。
現在はシェアリングエコノミーの浸透により、世の中にあるものやサービスを有効に効率的に使える社会ができてきていると思います。
例えば地方銀行の職員さんの場合だと、職員さんの労働力は銀行に所有されてはいますが、この労働力を他の組織のお手伝いだったりサポートをするということに費やしても良いということになります。
地域の人たちが銀行の労働力を使いたいと思えば提供してあげればいいわけです。
銀行側も自治体の職員さんや、地域の技術やものを持っている人たちにお願いして、一緒に新しいプロジェクトを立ち上げるという発想に立てば何でもできるわけです。
目の前にいる組織や物にとらわれて、それだけで物事を進めるというのでは限界があります。地域の他の人や組織、物や技術を借りたり、協力することでいくらでも良い発想やプロジェクトは立ち上げられるのです。
地方銀行のネットワークを活用する
ここで地方銀行の地域の中のネットワークが強みを発揮するのです。地方銀行は地域のあらゆるものや人にアクセスできる強みを持っています。松下幸之助の『他人(ひと)のものは自分のもの 、自分のものは他人(ひと)のもの』と言う発想を持って、地域の中で良いプロジェクトを起こすという思いさえあれば、何でもできると思うのです。