地方銀行の低PBR(株価純資産倍率)を改善する処方箋
PBR(株価純資産倍率)は、企業が資産を使ってどれだけ効率的に稼いでいるか、将来の期待収益をどれぐらい資産から稼げるかを見る指標です。これが低いという事は、自社の資産を効率的に使えておらず、株主資本や自社資本の稼働効率が悪いということなのです。
PBR=株価÷1株あたりの純資産額、で表されます。
PBRが1倍以下という事は、その会社を清算した価格と、株式時価総額を比べた時に、清算した価格の方が大きいということになります。これは株式市場から清算価値よりも低い、成長性が望めない企業だというふうに見られていることです。
東京証券取引所からの低PBR企業に対する要請
日本の株式市場の活性化を目的に、東京証券取引所(東証)は、2023年3月31日に、プライム市場とスタンダード市場の上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を行いました。これは、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業を念頭に、改善策を開示・実行するよう求めました。
地方銀行の大半は現在もPBRが0.5倍以下の銀行が大半
【銀行名】 【PBR(倍率)】 令和7年2月7日終値
三菱UFJ・FG 1.09
みずほ・FG 1.00
三井住友・FG 0.96
りそな・FG 0.95
千葉銀行 0.80
コンコルディア・FG 0.77
⇩
東和銀行 0.24
秋田銀行 0.24
清水銀行 0.23
大分銀行 0.22
栃木銀行 0.20
※低PBR下位100社の内、35社が地方銀行(東証プライム市場約1600社)
PBRを改善させる施策
それではPBRを改善させる方策にはどのようなものがあるのでしょうか。
- 稼働していない資産の売却や、低採算の事業を売却して経営の効率化をする。
- 既存の資産や事業の回転率を上げたり、新しい付加価値の高いビジネスを作り収益力を上げる。
- 経費を削減することで、収益力を向上させる。
- 自社株買いをして、株式市場に対して自社株が割安になっているというシグナルを出す。
以上が、主な施策になると思います。
都市銀行やの大手の地方銀行では最近の金利上昇の影響もあり、PBRが1倍以上になったり、1倍に近い水準まで改善しています。しかし大半の地方銀行は0.5倍以下のところにあります。
現在の地方銀行の事業領域では大幅な改善は見込めない
これは株式市場から自行の経済圏での成長が期待できないことや、低金利の影響で、今後地方銀行が収益を大きく伸ばすことができないと見られているということだと思います。
金利は日本銀行がインフレ対策として上げる政策を取り出しましたが、大幅に上昇するという事は望めないと思います。日本の現状の経済力では、欧米各国のような金利上昇は望めないと思います。なので金利上昇をあてにした大幅な収益性改善は難しいと思います。
そして経費削減の部分では、主に支店の統廃合による効率化を各地方銀行ともある程度進めており、これ以上の店舗の削減は難しい状況にあると思います。
地方銀行の経営は袋小路に入ったような状況なのです。
収益性を上げる為に新しい市場で勝負する
収益性を改善できる手段はあるでしょうか?
それは自分たちが持っている強みを洗い出して資産をうまく活用することです。
しかし既存の枠組みの中では大幅な収益改善はできません。
新しい収益源を作っていくしかないのです。
地方銀行の本当の強みの顧客ネットワーク
新しい収益を作るための銀行にある強みとなる資源は何でしょうか?
これは地域の中でつながっているお客様とのネットワークです。お客様とは従来、融資や預金、資金決済業務でつながっています。今までの業務を通して、地方銀行はお客様の資金情報や事業情報を効率よく収集できる立場にあるのです。
現状はこの情報は融資や預金、決済を中心とした業務を中心に活用されているだけです(一部コンサルティング業務に活用している)。拡張して活用している部分は、お客様の預金を投資信託や保険商品の販売に活かしてはいます。しかし既存の業務だけでは大幅な収益改善は望めないのです。
0⇒1の発想が必要
そこで新たな収益源を作ることが重要なのです。今は無いものから新しいものを生み出す発想が必要です。 0⇒1の発想で収益源を作っていくということが大事なのだと思います。
ではその収益源はどこに作れば良いのでしょうか?銀行は既に地域のお客様とネットワークを構築しております。そしてお客様は事業として様々な商材を持っています。この商材から新たな付加価値を作るという発想に立てば、新たな収益源を創る事は可能だと思うのです。
現状はお客様の商売は、お客様の中だけで完結しております。これをお客様同士の商材を組み合わせたり、売る場所を変えることで新たな付加価値を創る事は可能なのです。そしてお客様だけで付加価値を創るというのは非常に大変です。そこに地方銀行にいる職員さんが、お客様同士をつなげたり、新たな販売先を紹介したりすることで、新たな付加価値創造ができるわけです。
顧客ネットワークをつなぐ現場の職員
そしてこのような付加価値創造をするためには、お客様同士を物理的につなげる必要があります。物理的なつながりをつける為には人材が必要になります。このつなげる作業を行うのに、地方銀行の職員さんが最適なのです。
地方銀行の中にはこの職員が既にいるわけです。発想を変えるだけで、いくらでも付加価値創造活動はできるのです。既存の融資や預金、決済業務、投資信託や保険商品の販売業務をないがしろにするというのではありません。今までの業務をAIを使って効率化したり、不効率な部分を削減することで、職員が新たな活動ができる時間を生み出し、その生み出した時間を新たな付加価値創造を行う事業に回して、将来の収益源を作っていくという発想に変えていくのです。そうすればすぐに収益性は望めなくても、将来的にはお客様との関係がより強固になり、収益が増えていくこと可能性が高まるのではないでしょうか。
新しい事業領域を創る必要性
新しい付加価値創造を行う業務は、お客様との個別のプロジェクトとなります。事業領域を今までの金融を中心とした業務から、『金融 + プロジェクト型業務』として、そこから収益を創っていくという発想になれば事業領域が広がります。事業領域が広がれば収益の機会も増えるので、銀行の収益性の改善への期待値も上昇し、株式市場から見た評価も上がり、PBRの改善にもつながっていくと思うのです。
『負のスパイラル』から『正の循環』に入る営業現場
株式市場からも、地元の経済活動からのみ収益を上げるというビジネスモデルから、顧客の商材を通じたネットワークという無形の資産から、新たな付加価値を生むという新たなビジネスモデルを作っているという発信をしていけば、株式市場からの評価も上るのではないでしょうか。
このような活動がエコシステムとして稼働しだすと、現状の営業現場で起こっている低採算の仕事を継続しなければいけないという、『負のスパイラル』に陥ってた地方銀行の営業現場が、地域のお客様と協力して知恵を出しながら、新たな付加価値を創造するという前向きな『正の循環』の営業現場に戻すことが可能なのではないでしょうか。